平成18年(厚)第261号
平成19年3月30日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、障害基礎年金及び障害厚生年金を支給しないとした処分のうち、障害厚生年金に係る部分を取り消し、再審査請求人に対し、平成○年○月○日にその受給権が発生する障害等級3級の障害厚生年金を支給(ただし、平成○年○月までの分は時効消滅)するものとする。その余の本件再審査請求を棄却する。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、障害厚生年金及び障害基礎年金の支給を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、うつ病(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害厚生年金及び障害基礎年金(以下、併せて「障害給付」という。)の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、当該傷病の初診日(昭和○年○月○日)の前日において、障害給付を受けるために必要な保険料納付等に関する要件を満たしていないとして、同給付を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、前記処分を不服として、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 問題点
1 障害厚生年金を受給するための要件の一つは、対象となる障害の原因となった傷病(その傷病が他の傷病によって生じた場合は当該他の傷病)の初診日(傷病につき初めて医師の診療を受けた日。以下、単に「初診日」という。)において、厚生年金保険の被保険者であり、かつ、当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った場合においては、その傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。))(以下「障害認定日」という。)において、その傷病により厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1に掲げる程度以上の障害の状態にあることである。そして、その障害の状態が国民年金法施行令別表に掲げる程度に該当すれば、併せて、障害基礎年金が支給される(厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)第47条第1項及び国民年金法(以下「国年法」という。)第30条第1項)。ただし、国民年金の保険料の納付等についての要件(以下、この要件を「保険料納付要件」という。)を満たしていなければ、障害厚生年金又は障害給付は支給されないこととなっている。
2 すなわち、初診日の前日において、(ア)当該初診日の属する月の前々月(初診日が平成3年5月1日前にある場合、当該初診日の属する月前における直近の基準月(1月、4月、7月及び10月をいう。以下同じ。)の前月)までに国民年金の被保険者期間(昭和61年4月1日前の厚生年金保険の被保険者期間を含む。)があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間(昭和61年4月1日前の厚生年金保険の被保険者期間を含む。以下同じ。)と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であるか(以下、この要件を「3分の2要件」という。)、又は、(イ)当該初診日の属する月の前々月(初診日が平成3年5月1日前にある場合、当該初診日の属する月前における直近の基準月の前月)までの1年間が保険料納付済期間又は保険料免除期間で満たされている(以下、この要件を「1年要件」という。)ことが必要となる(厚年法第47条第1項、第47条の2第1項及び第2項並びに国年法第30条第1項、第30条の2第1項及び第2項並びに国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第20条第1項、第21条、第64条第1項及び第65条)。
3 本件の場合、請求人は平成○年○月○日(後に、昭和○年○月○日に訂正)が当該傷病の初診日であると主張し、一方、保険者は昭和○年○月○日と主張している。従って、本件における当面の問題点は、請求人の当該傷病に係る初診日が何時であるかであり、その初診日の前日において保険料納付要件が満たされていたかどうか、である。

第4 審査資料 「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 上記認定した事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 請求人は、昭和○年○月○日、a病院を受診し、「うつ状態、不眠」と診断されて抗不安剤・抗うつ剤を投与され、また、昭和○年○月○日、同医院を再受診し、思考抑制等を訴えて従前の薬剤を投与されており、以後、平成○年○月○日までの期間、同医院にて抗不安剤・抗うつ剤による治療を受けていたところ、「略」同年○月○日、当該傷病と診断され、従前の処方に、抗うつ剤(○○○○○○及び○○○○○)が追加された。そして、請求人は、平成○年○月○日、b病院に転院し、当該傷病と診断されて受療した。その後、請求人は、平成○年○月より○○国で生活していたが、同国のc病院で安定剤様の薬剤を投与され、平成○年○月○日に帰国後は、d病院及びe病院を受診して、当該傷病と診断され、受療して現在に至っているのであるから、昭和○年○月○日、a病院で診断された「うつ状態、不眠」と当該傷病は、その症状・経過・治療内容から判断して、一連の関連性のある傷病と判断するのが相当である。したがって、当該傷病の初診日は、昭和○年○月○日であると認定できる。
(2) ところで、社会保険の運用上、医学的には当初の傷病が治癒していない場合であっても、社会的治癒と認められる状況が認められるときは、再発したものとして取り扱われ、再発時の受診日が傷病の初診日とされる。傷病につき社会的治癒があったと認められるためには、相当の期間にわたって、当該傷病につき医療(予防的医療を除く)を行う必要がなくなり、その間に通常の勤務に服していることが必要とされる。本件の場合、請求人は、昭和○年○月○日、a病院を受診し、うつ状態等と診断されて、薬物治療を受けていたが、投薬内容は、予防的服薬の範疇と認められ、また、「略」にうつ状態が強くなって、平成○年○月○日、当該傷病と診断されるまでの○年半以上の間、同一事業所で支障なく勤務に従事していると認められることから、社会的治癒を認めるのが相当である。以上のことから、請求人の当該傷病の初診日は、平成○年○月○日とするのが相当である。すると、請求人の本件に係る厚生年金被保険者期間は、昭和○年○月○日から平成○年○月○日までであるので、前記第3の2の1年要件を満たしている。
(3) 厚年令別表第1は、3級の障害厚生年金が支給される程度の障害の状態を定めているが、請求人の当該傷病による障害に係ると認められるものとしては、「精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」( 13号)が掲げられている。一方、社会保険庁は、厚年法及び国年法上の障害の程度等を判定するための具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めており、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
(4) 認定基準の第3の第1章第8節「精神の障害」によれば、当該傷病による障害で障害等級3級に該当するものの例示として、「気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの」が挙げられている。障害認定日当時における、請求人の当該傷病による障害の状態を認定基準に照らしてみると、請求人は、病状として、抑うつ状態(○○・○○○○、○○)が認められ、日常生活能力の程度は、(4)日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である、とされ、日常生活能力の判定は、「通院と服薬(要)、他人との意志伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応」が自発的には出来ないが援助があればできる、とされているものの、「適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理と買物」が概ねできるが援助が必要とされていることから、この障害の状態は、前記3級の例示に相当していると認めることができる。したがって、障害認定日における請求人の当該傷病による障害の状態は、厚年令別表第1に掲げる3級の程度に該当していると認めることができる。
(5) 以上のことからすると、請求人に障害厚生年金を支給しないとした原処分は、その限度で妥当でなく、取り消されなければならない。