平成18年(厚)第432号
平成19年5月31日裁決

主文
社会保険庁長官が平成○年○月○日付で再審査請求人に対し、障害厚生年金及び障害基礎年(以下、併せて「障害給付」という。)を支給しないとした処分のうち、本件裁定請求日(平成○年○月○日)当時の障害の状態が障害給付を支給すべき障害の程度に該当しないことを理由として障害給付を不支給とした部分を取り消し、同人に対し、同日を受給権発生日とする障害等級1級の障害給付を支給するものとする。本件再審査請求のうち、その余の部分は棄却する。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、後記本件障害認定日を受給権発生日とする障害給付の支給を求めるということであり、それが認められない場合は、予備的に、本件裁定請求日を受給権発生日とする障害給付の支給を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、転換性障害(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害給付の裁定を請求したところ、同長官は、請求人の当該傷病による障害認定日(同月○日。以下「本件障害認定日」という。)当時の障害の状態は、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表、厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1のいずれに定める程度にも該当しないとして、同年○月○日付で同人に対し、障害給付を支給しない旨の処分(以下「先行処分」という。)をし、同処分はすでに確定している。
2 請求人は、本件裁定請求日に、改めて社会保険庁長官に対し、当該傷病による障害について、本件障害認定日(予備的には、本件裁定請求日)を受給権発生日とする障害給付の裁定を請求した。
3 社会保険庁長官は、本件裁定請求のうち、本件障害認定日を受給権発生日とする年金の裁定を求める請求(以下「裁定請求A」という。)については、同一内容の請求についてすでに不支給の処分が確定しているとしてこれを却下する旨の処分をし、また、本件裁定請求日を受給権発生日とする年金の裁定を求める請求(以下「裁定請求B」という。)については、裁定請求書に添付して提出された診断書を診査した結果、請求人の当該傷病による障害の状態は、国年令別表、厚年令別表第1のいずれに定める障害の程度にも該当しないとして、障害給付を支給しない旨の処分をした(いずれも請求人に対し平成○年○月○日付でされたもの。以下、前者を「原処分T」、後者を「原処分U」という。)。
4 請求人は、原処分T及び同Uを不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、平成○年○月○日(受付)、Cを再審査請求代理人に立てて、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 問題点
1 障害厚生年金は、国年令別表(障害等級1級及び同2級に係る障害の程度を規定)又は厚年令別表第1(同3級に係る障害の程度を規定)に掲げる程度の障害の状態に該当しない者には支給されないこととされている。そうして、障害等級2級以上の障害厚生年金が支給される者には、併せて障害基礎年金が支給される(厚生年金保険法第47条、第47条の2、及び、国民年金法第30条、第30条の2)。
2 本件の場合、請求人が本件傷病に係る障害について障害給付を受けるために必要とされる、障害の程度以外の資格要件を満たしていることについては当事者間に争いがないと認められるから、本件の問題点は、原処分Tないしその処分理由が適法かつ妥当なものと認められるかどうかということ、及び、原処分Uが、上記1の法令の規定に照らして適法かつ妥当なものと認められるかどうかということである。

第4 審査資料 「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 以上認定した事実に基づいて本件の問題点について検討し、判断する。
(1) 障害給付は、制度の趣旨からして、一定期間の治療により回復することを前提とする健康保険による傷病手当金の給付等と異なり、原則として永続的な障害を対象とする給付の性格を有するものであるところ、前記のとおり、請求人の左上下肢麻痺の障害は、その原因が心因性のものであって、医学的には、心理的要因の解消によって100%の機能回復の可能性が認められるというものであることを考慮すれば、発症から○年○月の時点では、未だ当該傷病による肢体の障害を障害認定の対象としないという先行処分の取扱いが明らかに合理性を欠いていたとまでは言えない。そうすると、裁定請求Aは、先行処分によって不支給が確定している裁定請求の蒸し返しであるとしてこれを却下した原処分Tは妥当である。 (2) そこで以下原処分Uについて検討することとなるところ、保険者は、請求人の本件裁定請求日における障害の状態を1級に相当するものと認めつつ、認定基準の定め(以下「当該認定要領」という。)に依拠して障害給付の支給を認めないとしたものである。したがって、本件の具体的事情を前提として、請求人の裁定請求Bについて、当該認定要領を適用したことが妥当であるか否かが争点となる。
(3) 国年令別表及び厚年令別表第1は、障害等級1級、同2級及び同3級に該当する障害の状態を規定しているとはいえ、そこに掲げられている具体例は限られており、千差万別の傷病に係る障害についてその程度をばらつきなく公平に認定するためには、両別表の規定を根幹に置きつつ、より詳細かつ具体的な実務指針が必要であることは否めない。そのような観点から、当審査会は、一般的には、保険者が認定基準に依拠して障害の程度を認定することを是認してきたところである。しかしながら、その位置づけが通達にとどまる認定基準の規定が肯定されるのは、その内容に合理性と合目的性が認められることが前提であることはいうまでもない。
(4) 当該傷病は、国際的な傷病の分類上、神経症の範疇に位置づけられるものであるところ、当該認定要領は、前記のとおり神経症による障害を原則として認定の対象外としている。このような取扱いは、神経症ないしそれに由来する障害が、統合失調症等の精神病に比べて障害の程度が軽微であったり、症状の持続性が限られている場合が多く、大半の症例で100%の回復がみられるという医学的知見に基づくものかと推測されるが、保険者は同要領の法的根拠やこれを正当とする理由を全く開示していない。したがって、個別具体的な障害認定において当該認定要領を適用することに妥当性が認められるかどうかは、慎重に判断すべきであるところ、本件の場合、@結果としての障害の状態が、明らかに1級に該当する重篤な程度であること、A発症から本件裁定請求日までにすでに4年以上を経過し、その間障害の状態に全く改善の兆しがないこと、B類似事例が乏しく、医学常識で今後の推移を的確に予見することが困難であること、など本件固有の特殊事情が認められることを考慮すれば、少なくとも本件裁定請求日における請求人の障害の状態について当該認定要領を適用することは妥当性を欠くと言わざるを得ない。
(5) そうすると、原処分Uは妥当でないからこれを取り消し、請求人に対し、本件裁定請求日を受給権発生日とする1級の障害給付を支給しなければならない。 3 なお、請求人の障害の原因である当該傷病の特殊性に鑑み、同人に支給される障害給付については、少なくとも毎年1回の現況届に際し、障害の状態の確認を要するものであることを念のため付言する。

以上の理由によって、主文のとおり裁決する。