平成18年(国)第205号
平成19年4月27日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成〇年〇月〇日付で、再審査請求人に障害基礎年金を支給しないとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、トキソプラズマ脳炎(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成〇年〇月〇日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害認定日による請求(予備的に事後重症による請求)として、障害基礎年金の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、平成〇年〇月〇日付で、請求人に対し、当該傷病の初診日(以下「本件初診日」という。)を平成〇年〇月〇日と認定した上で、障害基礎年金の支給を受けるために必要な保険料納付等に関する要件を満たしていないとして、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、本件初診日は平成〇年〇月〇日ではなく、平成〇年〇月〇日であるとして、〇〇社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対して審査請求をしたが、審査官はこれを棄却する旨の決定をした。
4 請求人は、審査官の決定を不服として、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 問題点
1 障害基礎年金は、障害の状態が国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める程度(障害等級1級又は2級)に該当しないときは支給されないこととなっている。また、障害の原因となった傷病(その傷病が他の傷病に起因するときは、当該他の傷病)の初診日が20歳前にある場合のほかは、初診日の前日において、保険料の納付等に関する一定の要件(国民年金法第30条第1項ただし書、第30条の2第2項、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第20条第1項参照。以下「保険料納付要件」という。)を満たしていないときも、障害基礎年金は支給されないこととなっている。
2 本件の場合、本件初診日を原処分が認定した平成〇年〇月〇日とすると、保険料納付要件を満たしていないことは明らかであるところ、請求人は、本件再審査請求においても、平成〇年〇月〇日に初診日があると主張しているものと解されるから、本件の問題点は、まずは、本件初診日はいつかであり、次いで、請求人の主張する平成〇年〇月〇日が初診日と認められる場合には、請求人が保険料納付要件を具備していることが認められるから、請求人の当該傷病による障害の状態が、主位的には障害認定日において、予備的には裁定請求日において、国年令別表に定める程度に該当しているかどうかである。

第4 審査資料 「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 (略)
2 以上認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 本件初診日について
ア 社会保険庁では、国民年金法及び厚生年金保険法上の障害の程度等を認定する基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
この認定基準の第1「一般的事項」の規定から、請求人の当該傷病の初診日の認定に必要な部分を摘記すると、次のとおりである。
初診日とは、障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいい、具体的には次のような場合が初診日とされる。
障害の原因となった傷病に、相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が初診日となる。また相当因果関係とは、ある行為(事象)からそのような結果が生じるのが経験上通常である場合に、ある行為(事象)とその結果には因果関係がありとするのが相当因果関係という考え方であり、相当因果関係ありとみた場合は前後の傷病は同一傷病として取り扱われる。
イ 医学的知見によると、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると、約半数が、3〜6週間目に発熱、感冒様症状、皮膚発疹、リンパ節腫脹、髄膜炎症状等の症状を示し、この時期が過ぎると、数年〜十数年に及ぶ無症候期に入り、CD4,T細胞数が減少し始めると、種々の日和見疾患を発症しやすくなる。そして、「サーベイランスのための診断基準(厚生省サーベイランス委員会、1994)」の定める23の疾患(AIDS指標疾患)の中のいずれかに罹患した時点でAIDS発症とされており、この指標疾患にトキソプラズマ脳症も含まれている(トキソプラズマは寄生原虫であり、汚染された土壌との接触などで感染し、眼トキソプラズマ、胎児の先天性トキソプラズマ等の原因となり、免疫不全患者の場合トキソプラズマ脳炎となる。)ところ、免疫不全が存在しなければトキソプラズマ脳炎は起こらないが、免疫不全という病態とトキソプラズマ原虫に感染するという二つの独立した条件が両方そろって成立することがトキソプラズマ脳炎の必要条件であり、免疫不全のみでそれが発生することが高い蓋然性で予測できるわけではない。
ウ 請求人の障害は四肢の障害であって、これは平成〇年〇月に出現しており、同年〇月に当該傷病によるものと診断されている。請求人は、遅くともa 病院を受診した平成〇年までにはHIVに感染し、免疫不全の状態となっていたことは推認し得るところであるが、同年の段階では、将来トキソプラズマ脳炎が発症するための条件の一つが成立したにすぎない。また、粟粒性結核は、もとより当該傷病の原因ではない。このように考えると、本件初診日は、平成〇年〇月〇日ではなく、平成〇年〇月〇日と認めるのが相当というべきである。
(2) 障害認定日当時の障害の状態について
ア 前記1(2) によると、障害認定日当時における請求人の当該傷病による障害としては、平衡機能の障害、言語機能の障害、及び肢体の機能の障害が認められるところ、これらの各障害により2級の障害基礎年金が支給される障害の程度としては、国年令別表に、それぞれ、「平衡機能に著しい障害を有するもの」(3号)、「音声又は言語機能に著しい障害を有するもの」(5号)及び「身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が前各号と同程度(注:日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度)以上と認められる程度のもの」(17号)が掲げられている。
イ 認定基準により、請求人の当該傷病による障害の程度を認定するために必要な部分を摘記すると、次のとおりである(第3第1章第4節/平衡機能の障害、同章第6節/言語機能の障害、同章第7節/肢体の障害「第4 肢体の機能の障害」、第2章第2節/併合( 加重) 認定)。
@ 平衡機能の障害には、その原因が内耳性のもののみならず、脳性のものも含まれるものであり、「平衡機能に著しい障害を有するもの」とは、四肢体幹に器質的異常がない場合に、閉眼で起立・立位保持が不能又は開眼で直線を歩行中に10メートル以内に転倒あるいは著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ない程度のものをいう。
A 言語機能の障害は、脳性によるものも含まれ、「音声又は言語機能に著しい障害を有するもの」とは、4種の語音のうち3種以上が発音不能又は極めて不明瞭なため、日常会話が誰が聞いても理解できないもの、をいい、「言語の機能に相当程度の障害を残すもの」とは、日常会話が家族は理解できるが、他人は理解できない程度のものをいい、「言語の機能に障害を残すもの」とは、電話による会話が家族は理解できるが他人は理解できない程度のものをいう。
B 肢体の機能の障害は、原則として、第1章第7節「第1 上肢の障害」、「第2 下肢の障害」及び「第3 体幹・脊柱の機能の障害」に示した認定要領に基づいて認定を行うが、脳卒中等の脳の器質障害、脊髄損傷等の脊髄の器質障害、多発性関節リウマチ、進行性筋ジストロフィー等の多発性障害の場合には、関節個々の機能の認定によらず、日常生活動作等の身体機能を総合的に認定し、肢体の機能の障害の程度は、運動可動域のみでなく、筋力、運動の巧緻性、速度、耐久性及び日常生活動作の状態から総合的に認定を行うが、各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりである。

障害の状態 2級 1.両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2.両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 3.一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 4.四肢の機能に障害を残すもの 3級 1.一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2.一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの 3.両上肢に機能障害を残すもの 4.両下肢に機能障害を残すもの 5.一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの 障害手当金 1.一上肢に機能障害を残すもの 2.一下肢に機能障害を残すもの

そして、身体機能の障害の程度と日常生活動作の障害との関係を参考として示すと、次のとおりである。
a「機能に相当程度の障害を残すもの」とは、日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。
b「機能障害を残すもの」とは、日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう。
C 認定の対象となる3つ以上の障害が併存する場合は、個々の障害について、併合判定参考表における該当番号を求めた後、当該番号の最下位及びその直近位について併合( 加重) 認定表による併合番号を求め、以下順次、その求めた併合番号と残りのうち最下位のものとの組合せにより、最終の併合番号を求め、障害の程度を認定する。
ウ 前記1の(2) で認定した請求人の平衡機能の障害の状態は、上記イ@のとおり、2級相当( 併合判定参考表2号の2)と認められる。
言語機能の障害は、「言語の機能に障害を残すもの」(併合判定参考表10号の4)に相当すると認められる。
肢体の機能の障害は、関節可動域及び運動筋力は、左上肢のそれは、正常、左下肢は、関節可動域は制限がみられず、運動筋力はやや減とされており、右上下肢は、関節可動域は制限がみられず、運動筋力は上下肢ともに半減とされている程度で、日常生活動作の障害の程度は、右上肢関連の日常生活動作は、タオルを絞る(両手)、ひもを結ぶ(両手)、さじで食事をするが、一人では全くできない、用便の処置をする(尻のところに手をやる)、上衣の着脱( かぶりシャツを着て脱ぐ・ワイシャツを着てボタンをとめる)(両手)が、一人でできるが非常に不自由、つまむ、握る、顔に手のひらをつける、用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)が、一人でできてもやや不自由とされているので、これは、「一上肢に機能障害を残すもの」(併合判定参考表10号の15)に相当すると認められる。そして、下肢関連の日常生活動作は、片足で立つ(右・左)、歩く(屋外)が、一人では全くできない、屋内を歩くが、一人でできてもやや不自由、階段を登る、降りるが、手すりがあればできるが非常に不自由、立ち上がるは支持があればできるが、やや不自由とされているところ、上記のとおり、請求人は、両下肢の関節可動域には制限がみられず、右下肢の運動筋力が半減、左下肢のそれはやや減とされている程度であるところ、平衡機能の障害が認められることから、下肢の機能の障害は、主として平衡機能の障害に由来するものというべきであり、前記平衡機能の障害の中ですでに評価されていると認定するのが相当である。
エ 以上の障害を併合して評価するには上記イCの併合(加重)認定の手法を用いることになるところ、右上肢の障害の該当番号10号と言語機能の障害の該当番号10号の併合番号は9号であり、これと平衡機能の障害の該当番号2号との併合番号は2号であるから、これは障害等級2級と認定される。
(3) 裁定請求日当時の障害の状態について
前記1(3) によると、裁定請求日当時における請求人の当該傷病による障害としては、障害認定日当時におけるのと同様の障害が認められるところ、これらの障害を上記の(2) で示した認定基準の定めに照らしてみると、次のとおりである。
言語機能の障害は、「言語の機能に相当程度の障害を残すもの」(併合判定参考表6号の2)に相当すると認められる。
肢体の機能の障害については、障害認定日当時における場合と同様、問題として取り上げなければならないのは右上肢関連の日常生活動作であるが、タオルを絞る(両手)、ひもを結ぶ(両手)、さじで食事をする、用便の処置をする(尻のところに手をやる)が、一人では全くできない、用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)、上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ・ワイシャツを着てボタンをとめる)(両手)が、一人でできるが非常に不自由、つまむ、握る、顔に手のひらをつけるが、一人でできてもやや不自由とされているので、右上肢の障害は、「一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」(併合判定参考表7号の8)に相当すると認められる。
平衡機能の障害は、障害認定日当時における場合と同様、2級相当(併合判定参考表2号の2)と認められる。
以上の障害を併合して評価するには上記(2) イCの併合(加重)認定の手法を用いることになるところ、右上肢の障害の該当番号7号と言語機能の障害の該当番号6号の併合番号は4号であり、これと平衡機能の障害の該当番号2号との併合番号は1号であるから、これは障害等級1級と認定される。
(4) このようにみてくると、請求人の障害認定日における当該傷病による障害の状態は、国年令別表に掲げる2級の程度には該当し、裁定請求日における障害の状態は、国年令別表に掲げる1級の程度に該当するから、原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。

以上の理由によって、主文のとおり裁決する。