平成19年(国)第225号
平成19年12月25日裁決

主文
社会保険庁長官が平成〇年〇月〇日付で再審査請求人に障害基礎年金を支給しないとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨

再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、統合失調症(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成〇年〇月〇日(受付)、社会保険庁長官に対し、当該傷病の初診日(以下「本件初診日」という。)を平成〇年〇月〇日とする障害認定日による請求として、障害基礎年金の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、本件初診日を平成〇年〇月〇日と認定し、請求人は、その前日において、障害基礎年金を受けるために必要な保険料納付等に関する要件を満たしていないという理由により、平成〇年〇月〇日付で、同人に対し、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、〇〇社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

第3 問題点
1 障害基礎年金は、障害の状態が国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める程度(障害等級1級又は2級)に該当しないときは支給されないこととなっている。また、障害の原因となった傷病(その傷病が他の傷病に起因するときは、当該他の傷病)の初診日が20歳前にある場合のほかは、初診日の前日において、保険料の納付等に関する一定の要件(以下「保険料納付要件」という。国民年金法第30条第1項ただし書、第30条の2第2項、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第20条第1項参照。)を満たしていないときも、障害基礎年金は支給されないこととなっている。
2 本件の場合、本件初診日を原処分が認定した平成〇年〇月〇日とすると、保険料納付要件を満たしていないことは明らかであるところ、請求人は、本件再審査請求においても、平成〇年〇月〇日に初診日があると主張しているものと解されるから、本件の問題点は、まずは、本件初診日はいつかであり、次いで、請求人の主張する平成〇年〇月〇日が初診日と認められる場合には、請求人が保険料納付要件を具備していることが認められるから、請求人の当該傷病による障害の状態が、障害認定日当時において、国年令別表に定める程度に該当しているかどうかである。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 (略)
2 上記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 本件初診日について
原処分は本件初診日を平成〇年〇月〇日と認定している。これは、請求人がa 病院b 科を受診して身体表現性障害と診断された日をもって本件初診日とすべきであるとするものであるところ、本件審理期日における保険者代理人の陳述によれば、それは、上記の身体表現性障害が当該傷病の前駆症状と判断されることを理由とするものである。また、本件審理期日後に提出された社会保険庁運営部年金保険課作成名義の平成〇年〇月〇日付書面には、同課医療専門官の意見であるとして、「主治医の意見としては、「パニック障害、身体表現性障害は、統合失調症を確定する症状は認めません。」とあります。確かに、パニック障害、身体表現性障害、等の神経症と統合失調症とは別の疾患です。しかし、統合失調症の前駆症状としてパニック障害、身体表現性障害、等の神経症の症状が表現されることは少なくなく、これらの疾患(の症状)によって精神科、神経科、心療内科、等を受診した後に、明らかな統合失調症の症状を呈して統合失調症を発病した場合は、障害年金の認定上、パニック障害、身体表現性障害、等の神経症(の症状)を統合失調症の前駆症状として認め、初診日はパニック障害、身体表現性障害、等の初診日で認定すべきと考えます。」との記載がある。
確かに、身体表現性障害のような神経症に属する傷病をもって統合失調症の前駆症状と認め、そのために初めて医師の診療を受けた日を統合失調症の初診日と考えるのを相当とする場合があり得るであろうことは、一般論としては頷けるところである。
しかしながら、請求人は、平成〇年〇月〇日にa 病院b 科を初めて受診して身体表現性障害と診断され、以来、平成〇年〇月〇日に至るまで、月に〇回程度の割合で継続的に同科に通院して診察・治療を受けているところ、主治医であるA医師は、前記1の(2) の@ないしBで認定したように、「初診から平成〇年〇月までは少なくとも身体表現性障害の症状のみ認めており、操作的診断からは統合失調症と確定する症状は認めていません。また内服薬も統合失調症に準ずるものは使用していません。平成〇年〇月以降の経過を経てさかのぼってみれば前駆症状という見方も出来ますが、これはあくまでも結果論ということになります。」、「平成〇年には身体症状あるも自制内、就労意欲もあり・・・ホームヘルパー2級の資格も取得するに至った。投薬も徐々に減らせており、改善傾向になった。」、「しかし平成〇年に入り人の視線が気になり言動にまとまりなく表情も固くなり、平成〇年〇月〇日精神病的なものを考え精神科へ紹介となった。」などとその診察状況を述べているのであり、これによれば、同医師ないしはa 病院b 科の医師は、平成〇年〇月から月に〇回程度の継続的かつ定期的診察を行い、当然、その過程においては、専門医師として、請求人の疾患が身体表現性障害にとどまらない精神病的なものか否か、あるいは精神病的なものの前駆症状として対応すべきか否かなど、身体表現性障害と他の類似傷病との鑑別について、慎重かつ子細な観察・検討と診断を繰り返してきたものとうかがわれるにもかかわらず、平成〇年〇月に至るまで〇〇年以上の長期間にわたって、請求人に精神病的な症状を認めず、同人がかかっている疾病は身体表現性障害であって精神病圏に属するものではないとして、専らそれに対応する治療のみを行い、それが精神病圏に属するものの前駆症状であるという疑いを抱いた形跡も存しないことが明らかである。そして、このような経過は、前記1の(1) で認定した、請求人ないし請求人代理人が述べるところともよく符号する。また、一般的な医学上の知見によれば、身体表現性障害とは、何らかの身体疾患の存在を示唆する身体症状が存在するという意味であり、その身体症状が器質的な身体疾患、薬物の直接的な影響、あるいはほかの精神疾患によって説明できず、臨床的に著しい苦痛や社会的、職業的、又はほかの領域における機能障害を生じている場合に身体表現性障害という、とされており(医学書院刊・医学大辞典参照)、それは、本件における当該傷病である統合失調症を除外診断して成立する概念であり、疾病である。以上のような診療経過、特に、請求人の疾病・症状を継続的・定期的に観察してきた主治医が、〇〇年余にわたって請求人の疾病を精神病圏にあるものとはもとより、その前駆症状ととらえることもなかったこと、そして、そのような対応は、身体表現性障害が上記のような概念内容の疾病であることを当然の前提としたものと考えられるところであり、これを問題視しなければならない点も見いだせないこと等の事情にかんがみるならば、一般論として身体表現性障害をもって統合失調症の前駆症状とみることができる場合があり得るにしても、A医師が述べるように、本件においてはそれは結果論であり、請求人が平成〇年〇月〇日に受診して診断された身体表現性障害と、平成〇年〇月〇日に受診して診断された当該傷病とは、条件説的な意味合いの医学上の因果関係は否定できないにしても、その関係はさほど強い結び付きのあるものではなく、かなりの程度薄いものというべきであるから、本件におけるような社会保険上の障害給付を検討する場面においては、請求人が身体表現性障害と診断された平成〇年〇月〇日を当該傷病の初診日とすることには躊躇を覚えざるを得ず、請求人が初めて精神科を受診して当該傷病と診断された平成〇年〇月〇日をもって当該傷病の初診日と認めるのが相当というべきである。
なお、この認定・判断は、もとより、本件とは事情を異にする事案において、身体表現性障害を統合失調症等の精神病圏に属する疾病の前駆症状ととらえ、その初診の日をもって統合失調症等の初診日と認定したり、あるいは、時に応じて自律神経失調症、過呼吸症候群、うつ病、神経性うつ病、パニック障害などの傷病名がそれぞれ付されているような場合に、その実態に明らかな断絶が認められないときは、相互に相当因果関係のある一連の疾病と認定・判断したりすることがあり得ることを否定するものではない。
(2) 障害認定日当時の障害の状態について上記(1) のとおり本件初診日は平成〇年〇月〇日と認定するのが相当であるところ、請求人がその前日において保険料納付要件を具備していることは前記第3の2に記載したとおりであるから、以下、障害認定日となる平成〇年〇月〇日当時の当該傷病による障害の状態を検討すると、次のとおりである。
@ 国年令別表は、障害基礎年金が支給される障害の状態を定めているが、請求人の当該傷病による障害に関係すると認められるものとしては、障害等級1級として、「精神の障害であって、前各号と同程度(注:日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度)以上と認められる程度のもの」(10号)、障害等級2級として、「精神の障害であって、前各号と同程度(注:日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度)以上と認められる程度のもの」(16号)がそれぞれ掲げられている。 そして、社会保険庁では、国民年金法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
A 認定基準の第3第1章第8節/精神の障害によると、精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に該当するものと認定するとされている。そして、統合失調− 90 − 症で1級に相当すると認められるものの一部例示として、「精神分裂病(注:統合失調症の旧称。以下「統合失調症」という。)によるものにあっては、高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の介護が必要なもの」、2級に相当すると認められるものの一部例示として、「統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの」がそれぞれ掲げられ、統合失調症は、予後不良の場合もあり、国年令別表等に定める障害の状態に該当すると認められるものが多いが、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面急激に増悪し、その状態を持続することもあるので、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮するとされ、日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能、特に、知情意面の障害も考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める、とされている。
B 前記1(3) で認定した請求人の障害認定日当時の当該傷病による障害の状態を見ると、病状又は状態像として、抑うつ状態(刺激性・興奮、憂うつ気分)、幻覚妄想状態等(妄想)、統合失調症等残遺状態(自閉、感情鈍麻)が、具体的な程度として、易刺激的で妄想が出現しやすい等が、それぞれ指摘され、社会生活についての全般的状況としては、家族以外の対人交流はほとんどないとされている。また、日常生活能力の判定は、通院と服薬(要)が、「自発的にはできないが援助があればできる」とされているものの、その他の評価項目である、適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理と買物、他人との意志伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応は、すべて「できない」で、日常生活能力の程度は、(4) の「精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。」とされている。以上のような障害の状態に加えて、前記1(4) で認定したように、本件審理期日において、保険者の代理人が、平成〇年〇月〇日現症における請求人の当該傷病による障害の状態は1級に該当する程度である旨の意見を述べていることをも勘案するならば、請求人の障害認定日当時における当該傷病による障害の状態は、前記の1級の例示に該当し、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとして、1級に該当するものと認定するのが相当である。
(3) 以上のとおりであるから、請求人に障害基礎年金を支給しないとした原処分は妥当でなく、これを取り消さなければならない。