平成21年(厚)第295号
平成22年11月30日裁決

主文
第2の3記載の原処分は、これを取り消す。再審査請求人には、平成○年○月○日を受給権発生日とする障害等級2級の障害基礎年金及び障害厚生年金が支給されるのが相当である。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、脳血管障害(以下「本件傷病@」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害認定日による請求として、国民年金法又は厚生年金保険法の規定に基づく障害に係る年金給付(以下、単に「障害給付」という。)の裁定を請求したところ、同長官は、同○年○月○日付で、請求人に対し、「請求のあった傷病(脳血管障害)の初診日(平成○年○月○日)の前日において、平成○年○月までの国民年金の被保険者期間のうち保険料納付済期間(厚生年金保険の加入期間を含む)の月数と保険料免除期間の月数とを合算した月数が前記国民年金の被保険者期間の月数の3分の2に満たないため。国民年金の被保険者期間○○月保険料納付済期間及び保険料免除期間○○月」として、障害給付を支給しない旨の処分をした。
2 請求人は、本件傷病@により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、いわゆる事後重症による請求として、障害給付の裁定を請求したところ、同長官は、同年○月○日付で、請求人に対し、「今回請求された傷病(脳血管障害)は、既に不支給決定された傷病(脳血管障害)と同一傷病であり、かつ、初診日の前日において必要な国民年金の被保険者期間に対する保険料納付済期間等が不足しており、重複請求であるため。」として、障害給付の裁定請求を却下する旨の処分をした。
3 請求人は、多発性硬化症(以下「本件傷病A」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、障害認定日による請求として、障害給付の裁定を請求したところ、同長官は、同年○月○日付で、請求人に対し、「今回請求された傷病(多発性硬化症)は、既に不支給決定された傷病(脳血管障害)と同一傷病であり、かつ、初診日の前日において必要な国民年金の被保険者期間に対する保険料納付済期間等が不足しており、重複請求であるため。」として、障害給付の裁定請求を却下する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
4 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。
その不服の理由は、本件傷病@と本件傷病Aは別傷病であるから、本件傷病Aに係る初診日を平成○年○月○日として、請求人に障害給付を支給することを求める、ということであると解される。
5 審理期日において保険者の代理人は、請求人は、平成○年に本件傷病@を発症した後、当該傷病とは別傷病である本件傷病Aが発症し、その初診日は平成○年○月○日であると認めた上で、本件傷病Aの初診日前の本件傷病@による障害の状態は、a病院b科・A医師作成の診断書(平成○年○月○日付)によれば、「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」に相当し、国民年金法施行令別表に定める1級の障害に該当する、そうすると、本件傷病Aの初診日前に、1級の障害の程度に該当する本件傷病@が存在しており、今回提出された後記資料1の診断書から、本件傷病Aのみによる障害の状態を確認することはできないから、原処分は、結論として妥当である、そして、国民年金法第30条の3及び厚生年金保険法第47条の3に規定する、いわゆる「初めて2級」による請求があったと解しても、同請求は、基準傷病以外の傷病(以下「既存傷病」という。)により障害の状態にあるものが、基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、初めて、基準傷病による障害と既存傷病による障害とを併合して障害等級の1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当することを要件の一つとしており、既存傷病による障害の状態が2級以上である場合は当該要件を満たしていないことになるところ、本件においては、既存傷病に当たる本件傷病@による障害の状態は、前記のとおり1級に該当するから、「初めて2級」による請求についてはその支給要件を満たしていない旨陳述した。この保険者の代理人の陳述によれば、保険者は、原処分の理由を、本件傷病@と本件傷病Aとは別傷病であるが、本件傷病Aのみによる障害認定日における障害の状態を確認することはできず、また、「初めて2級」による請求があったと解しても、その支給要件を満たしていないから、原処分は結論として妥当である、と変更したものと解される。

第3 問題点
1 疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において厚生年金保険の被保険者である者が、当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った日があるときは、その日とし、以下「障害認定日」という。)において障害等級(障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。以下、単に「障害等級」という。)1級、2級又は3級に該当する程度の障害の状態にある場合に、その障害の程度に応じて、その者に障害厚生年金が支給される。ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、国民年金の保険料の納付等に係る次のいずれかの要件を満たしていなければならない(以下、この要件を「保険料納付要件」という。)、とされている(厚生年金保険法第47条及び国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号。以下「昭和60年改正法」という。)附則第64条第1 項)。
@ 初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること
A 初診日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないこと
2 疾病にかかり、又は負傷し、かつ、当該傷病に係る初診日において国民年金の被保険者である者が、障害認定日において障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態にあるときに、その者に障害基礎年金が支給される。ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、保険料納付要件を満たしていなければならない、とされている(国民年金法第30条及び昭和60年改正法附則第20条第1項)。
3 本件傷病@と本件傷病Aは別傷病であり、本件傷病Aに係る初診日(以下「本件初診日」という。)が平成○年○月○日であること、本件初診日において請求人が厚生年金保険及び国民年金の被保険者であり、本件初診日の前日において保険料納付要件が満たされていること、並びに本件傷病Aに係る障害認定日(以下「本件認定日」という。)が平成○年○月○日であることは、本件資料から明らかであり、これらの点についての当事者間の争いはないと認められるから、本件の問題点は、本件認定日における本件傷病Aに係る請求人の障害の状態(以下「本件障害の状態」という。)が、障害等級1級、2級又は3級に該当する程度の障害の状態であると認めることができるかどうかである。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点について検討し、判断する。
(1) 多発性硬化症は、いわゆる難病であるが、神経線維を保護している膜に自己免疫的な異常が起き、神経のある場所の様々なところで炎症、障害を起こす疾患で、増悪寛解を繰り返し、空間的及び時間的多発性を示す病状及び障害が特徴的である。
(2) 請求人の障害は、本件認定日当時、主として、肢体の機能に障害が出現しているところ、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表は、障害等級1級及び2級の障害給付、厚生年金保険法施行令別表第1は障害等級3級の障害厚生年金が支給される障害の状態をそれぞれ定めているが、2級の障害の程度としては、「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(15号)が掲げられ、また、3級の障害の程度としては、「前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」(12号)、「傷病が治らないで、身体の機能又は精神若しくは神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであつて、厚生労働大臣が定めるもの」(14号)がそれぞれ掲げられている。これらの障害の程度を認定するためのより具体的な基準としては、社会保険庁により発出され、同庁の廃止後は厚生労働省の発出したものとみなされて、引き続き効力を有するものとされている「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)が定められており、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
(3) 認定基準により、請求人の本件障害の状態を認定するために必要な部分を掲げると、次のとおりである(第3第1章(以下「本章」という。)第7節/肢体の障害「第4 肢体の機能の障害」、本章第19節/重複障害、第2章第2節/併合(加重)認定、同章第4節/差引認定)。
@ 肢体の機能の障害について
ア 肢体の機能の障害は、原則として、本章第7節「第1 上肢の障害」、「第2 下肢の障害」及び「第3 体幹・脊柱の機能の障害」に示した認定要領に基づいて認定を行うが、脳卒中等の脳の器質障害等の多発性障害の場合には、関節個々の機能による認定によらず、関節可動域、筋力、日常生活動作等の身体機能を総合的に認定する。
イ 肢体の機能の障害の程度は、運動可動域のみでなく、筋力、運動の巧緻性、速度、耐久性及び日常生活動作の状態から総合的に認定を行うが、各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりである。
障害の程度   障 害 の 状 態 1級    1.一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの       2.四肢の機能に相当程度の障害を残すもの 2級    1.両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの       2.両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの       3.一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの       4.四肢の機能に障害を残すもの 3級       1.一上肢の機能に相当程度の障害を残すもの       2.一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの       3.両上肢に機能障害を残すもの       4.両下肢に機能障害を残すもの5.一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの
ウ 身体機能の障害の程度と日常生活動作の障害との関係を参考として示すと、次のとおりである。
(ア) 「用を全く廃したもの」とは、日常生活動作のすべてが「一人で全くできない場合」又はこれに近い状態をいう。
( イ) 「機能に相当程度の障害を残すもの」とは、日常生活動作の多くが「一人で全くできない場合」又は日常生活動作のほとんどが「一人でできるが非常に不自由な場合」をいう。
( ウ) 「機能障害を残すもの」とは、日常生活動作の一部が「一人で全くできない場合」又はほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」をいう。
A 重複障害について
障害が重複する場合の障害の程度の認定は、「第2章 併合等認定基準」により判定する。
B 併合(加重)認定についてア 2つの障害が併存する場合個々の障害について、併合判定参考表(別表1。掲表略)における該当番号(以下、単に「1号」などという。)を求めた後、当該番号に基づき併合( 加重) 認定表(別表2。掲表略)による併合番号を求め、障害の程度を認定する(以下「併合( 加重) 認定の手法」という。)。
C 差引認定について
ア 現在の障害の状態の活動能力減退率から前発障害の前発障害差引活動能力減退率を差し引いた残りの活動能力減退率(以下「差引残存率」という。)に応じて、差引結果認定表により認定する。
イ 後発障害の状態が、併合判定参考表に明示されている場合、その活動能力減退率が差引残存率より大であるときは、その明示されている後発障害の、障害の状態の活動能力減退率により認定する(以下「差引認定の手法」という。)。
(4) 本件認定日当時における請求人の障害の状態は、左右上肢の関節運動筋力は右手関節背屈で著減の他はすべて半減とされ、左右上肢関連の日常生活動作については、「タオルを絞る(水をきれる程度)」、「ひもを結ぶ」、「上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)」、「上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)」(両手)は一人では全くできないとされているものの、他の評価項目は、すべて一人でできてもやや不自由とされているのであるから、左右上肢のこのような状態は、「両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」に相当する程度に至っているとまではいえず、「両上肢に機能障害を残すもの」に相当する程度にとどまっていると判断でき、併合判定参考表の該当番号7号の程度に該当する。また、左右下肢の関節運動筋力はすべて消失とされ、左右下肢関連の日常生活動作については、すべて一人では全くできないとされているのであるから、両下肢のこのような状態は、「両下肢の用を全く廃したもの」に相当し、併合判定参考表の該当番号1号に該当している。そうして、併合( 加重) 認定の手法を用いると、7号と1号の併合番号は1号であり、これは1級と認定するとされている。
したがって、この障害の状態は国年令別表の障害等級1級に相当すると認められる。
(5) 次いで、本件障害の状態を検討する。
本件傷病@は、主に左上・下肢の機能の障害であると認められ、本件傷病Aは主に四肢の機能の障害であると認められる。したがって、本件認定日において、左上・下肢の状態は、本件傷病@による障害の状態(以下「前発障害の状態」という。)と本件障害の状態が重複したものであり、右上・下肢の状態は主に本件障害の状態を反映したものと判断できるところ、前発障害の状態の程度と本件障害の状態の程度とを明確に分けることは困難であるが、請求人の障害の状態を左上・下肢の機能の障害と右上・下肢の機能の障害に大きく分けて検討し、本件障害の状態の程度を抽出し、判断することは可能と思料する。
まず、左上・下肢の障害の状態をみてみると、左上肢関連の日常生活動作は、「つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)」、「握る( 丸めた週刊誌が引き抜けない程度)」、「さじで食事をする」、「顔を洗う(顔に手のひらをつける)」、「用便の処置をする( ズボンの前のところに手をやる/尻のところに手をやる)」が一人でできてもやや不自由、「タオルを絞る( 水を切れる程度)」、「ひもを結ぶ」、「上衣の着脱( かぶりシャツを着て脱ぐ/ワイシャツを着てボタンをとめる」が両手でも一人で全くできないとされているのであるから、それは上記(3) の@のイの例示のうち「一上肢に機能障害を残すもの」の程度の範囲にとどまり10号該当である。左下肢関連の日常生活動作はすべてが「一人で全くできない」程度であり4号に該当し、併合( 加重) 認定の手法を用いると、左上・下肢の機能の障害の状態は、10号と4号を併合すると4号に該当し、2級の障害等級と認めるのが相当である。
次に、右上肢・下肢の機能の障害の状態も同様に評価すると、右上肢の機能の障害の状態は10号に該当し、右下肢の機能の障害の状態は4号に該当し、右上・下肢の機能の障害の状態は、併合すると4号に該当し、2級の障害等級と認めるのが相当である。
そして、二つの重複する障害のうちの一つの障害の程度を判定するには、認定基準によれば、重複する障害の状態の程度から前発傷病による障害のそれを差引抽出し、後発傷病による障害の程度を判断する手法がとられることになるところ、本件認定日当時における請求人の障害の状態は、相当因果関係のない別傷病である本件傷病@(前発傷病)と本件傷病A(後発傷病)により、左右上・下肢の同一部位に重複した障害を起こしたものであるから、本件障害の状態の程度は、肢体の機能の障害として1級の状態にある請求人の障害の状態から前発障害の状態の程度を差し引きすることにより判断されることになる。
請求人の本件傷病@について、病状経過をみると、左上・下肢の機能の障害は平成○年当時において「一上肢一下肢の用を全く廃したもの」の程度であるものの、本件認定日では左上肢は「一上肢に機能障害を残すもの」の程度にやや改善し、左下肢は「一下肢の用を全く廃したもの」で、改善していない状態と認められる。審理期日における保険者の代理人の陳述によれば、本件傷病@は脳の血管性の疾病であり、その後に新たな脳内の病変が生じた事実は示されておらず、症状の固定性が認められるとされるのが医学上の一般的見解であるので、前発障害の状態は平成○年当時から本件認定日においても1級であり、変動していないとするものであるが、本件認定日当時において請求人の左上肢の運動筋力及び日常生活動作について症状の改善が認められることなどを勘案すると、その見解をそのまま本件に当てはめるのは相当でない。前発障害の状態は、本件認定日における状態の程度で判断すべきもので、前記2の(4) で説示したように、左上・下肢の機能の障害の状態は併合判定参考表の4号の障害の程度にあり、この障害の程度は2級の程度であり、1級には至っていないと認めるのが相当である。
以上の検討に基づいて、差引認定の手法により、本件認定日当時における請求人の障害の状態である1級の程度から、前発障害の状態の程度である2級の程度を差し引き、本件障害の状態の程度を抽出すると、それは障害等級2級に該当すると認めるのが相当である。
3 以上のとおりであるから、本件傷病Aにより障害の状態にあるとして障害給付の裁定を求めた請求人の請求を却下、した原処分は相当でなく、取消しを免れない。請求人には、本件認定日である平成○年○月○日を受給権発生日とする障害等級2級の障害給付が支給されるのが相当である。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。