平成21年(厚)第347号
平成22年11月30日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対してした、障害給付を支給しないとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求める、ということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、昭和○年○月を初診日とする「右)網膜剥離」(以下「傷病A」という。)により障害の状態にあったところ、新たに平成○年○月○日を初診日とする「左)虚血性視神経症」(以下「傷病B」という。)が生じ、初めて、傷病Bによる障害と傷病Aによる障害とを併合して障害等級の1級又は2級に該当する程度の障害の状態に該当するに至ったとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、初めて障害等級の1級又は2級に該当したことによる請求として、厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)又は国民年金法(以下「国年法」という。)の規定に基づく障害等級2級以上の障害に係る年金給付(以下、単に「障害給付」という。)の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、「請求のあった傷病・・<基準傷病>(左)虚血性視神経症)と傷病(右)網膜剥離)について、基準傷病の初診日が平成○年○月○日であり、平成○年○月○日現在治っていないので、障害の程度を定める日が到来していないため。」との理由により、障害給付を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、「略」などと主張して、再審査請求をした。

第3 問題点
1 厚年法及び国年法は、傷病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日を初診日として、当該初診日から起算して1年6月を経過した日、及び、その期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)があるときは、その日を障害認定日と定めており、障害給付の裁定請求時において、障害認定日が到来していない場合は、裁定請求に係る障害給付は支給されないこととされている。
2 本件裁定請求は、傷病Aをいわゆる前発傷病、傷病Bを基準傷病とする、いわゆる「初めて2級」による請求としての障害給付の請求であり、上記の障害認定日は、基準傷病である傷病Bについてこれをみるべきことになるところ、原処分は、第2の2記載のように、傷病Bに係る初診日(以下「本件初診日」という。)は平成○年○月○日であり、同傷病は治っていないので、本件裁定請求日において同傷病に係る障害認定日が到来していないとして、請求人に障害給付を支給しないとしたものである。
3 これに対し、請求人は、第2の3に記載したように、傷病Bは、本件裁定請求日より前の平成○年○月○日の時点において、既に症状固定の状態にあったというべきであり、本件裁定請求日には、同傷病に係る障害認定日は到来している旨主張しているところ、本件裁定請求が上記の初めて2級の裁定請求の要件を満たしていることについては、上記の障害認定日が到来しているか否かと、傷病Bによる障害と傷病Aによる障害とを併合した障害の程度(以下「本件の障害の程度」という。)の点を除き、当事者間に争いがないものと認められ、本件初診日が平成○年○月○日であることも当事者間に争いがなく、本件裁定請求日において同日から起算して1年6月を経過していないことは明らかであるから、本件で検討すべき問題は、まずは、本件裁定請求日の前に傷病Bに係る症状が固定した状態に至っていたと認めるのが相当か否かであり、次いで、それが認められる場合には、本件障害の程度いかん、ということになる。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点を検討し、判断する。
(1) まず、本件裁定請求日の前に傷病Bに係る症状が固定した状態に至っていたと認めるのが相当か否かについて検討する。
ア 厚年法及び国年法は、第3の1に示したように、「当該初診日から起算して○年○月を経過した日、及び、その期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)があるときは、その日」を障害認定日と定めているところ、厚年法及び国年法上の障害の程度等を認定するためのより具体的基準として、社会保険庁により発出され、同庁の廃止後は厚生労働省の発出したものとみなされて、引き続き効力を有するものとされており、給付の公平を期するための尺度として、当審査会としてもそれに依拠するのが相当であるとしてきている「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)が定められているが、その「第1 一般的事項」の「5 傷病が治った状態」では、「「傷病が治った状態」とは、器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は、医学的に傷病が治ったとき、又は、その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が求められ、医療効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が自然経過により到達すると認められる最終の状態(症状が固定)に達したときをいう。」と説明されている。
イ 傷病Bについて、その原因及び発症の推移をみると、1で認定した事実によって認められる状況に、本件記録中の請求人作成「病歴・就労状況等申立書」をも併せれば、請求人は、昭和○年代から右眼は傷病Aのため失明状態で、左眼のみで日常生活を送り、仕事にも就いてきたが、平成○年○月、体調を崩し、同月○日、近医を受診し、翌○日には県立病院を受診して検査を受けたところ、くも膜下出血と診断され、別の県立病院に搬送されてくも膜下出血に対する手術を施行されたが、その後、左眼について、入院中に視力が低下し、本件審査資料の現症日である平成○年○月○日においては、傷病の原因又は誘因を「くも膜下出血」として傷病Bと診断され、「症状の良くなる見込」は「○」、「視力」は、裸眼は「○○○」、矯正は「○○」、視野は「○○○」とされ、「予後」については、右眼をも含む趣旨と思われるが、「○○○○○」とされ、失明状態に至っていることが認められる。これらの事実によれば、請求人の左眼は、くも膜下出血の発症により、それに係る手術の当時から、不可逆的な血流障害・虚血に因って失明ないしはそれに近い状態に陥ったことを推認し得るものというべきところ、その後の平成○年○月○日の時点で、上記のように診断されていることを考えると、傷病Bについては、同日において、アに示した認定基準の説明にいう「症状が固定に達したとき」に当たり、厚年法及び国年法の規定する傷病が治った状態にあったものと認めるのが相当である。
ウ なお、本件再審査請求に出席した保険者の代理人は、「(本件審査資料によると)傷病が治った(症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含む。)かどうかについては、症状の良くなる見込みが「○」としつつも「傷病が治っていない」と診断されています。以上のことから、平成○年○月○日現在、基準傷病がなおっていないと判断したものです。」との意見を述べており、この「「傷病が治っていない」と診断されています」というのは、本件審査資料上、上記の「傷病が治った(症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含む。)かどうか」の欄には、その選択肢として、「傷病が治っている場合」と「傷病が治っていない場合」の2つが記載されているところ、「傷病が治っている場合」が選択されていないことに専ら依拠したものと解されるが、請求人の左眼は本件審査資料に係る現症日において既に失明状態なのであり、しかも、それは、上記のイで示したように、矯正不能で、視力回復の見込みはないとされているのであるから、傷病Bが治った状態といい得るために、さらに何が必要としていることになるのか、理解に苦しむところであり、上記の意見は、とうてい採用の限りでない。
エ 以上のとおりであるから、傷病Bに係る症状は、本件裁定請求日の前である平成○年○月○日には固定した状態に至っていたものと認めるのが相当である。
(2) そこで、次に、本件障害の程度について検討する。
ア 障害給付に係る障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級、及び3級とされ、各級の障害の状態は、政令で定めるとされ、1級及び2級の障害の状態については、国民年金法施行令別表に定められており、同別表には、本件障害である眼の障害で、1級に該当する程度のものとして、「両眼の視力の和が0.04以下のもの」が挙げられているところ、認定基準は、視力障害について、屈折異常のあるものについては、矯正視力を測定し、これにより認定するが、矯正が不能のものは裸眼視力により認定する、両眼の視力は、両眼視によって累加された視力ではなく、それぞれの視力を別々に測定した数値であり、両眼の視力の和とはそれぞれの測定値を合算したものをいう、などと定めている。
イ 本件障害についてこれをみると、それは、視力障害で、右眼・左眼ともに、視力の矯正は不能で、裸眼では光覚弁なしという失明状態なのであるから、「両眼の視力の和が0.04以下のもの」に当たることは明らかであり、視野等のその余の点を考慮するまでもなく、国民年金法施行令別表に定める1級の程度に該当するものといわなければならない。
3 以上のとおりであるから、請求人に障害給付を支給しないとした原処分は相当ではなく、請求人には平成○年○月○日を受給権発生日とする障害等級1級の障害給付が支給されるべきである。
4 よって、本件再審査請求は理由があるから、原処分を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。