平成21年(国)第57号
平成21年10月30日裁決

主文
後記第2の2記載の原処分を取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求める、ということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、慢性腎不全(以下「請求傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、請求傷病に係る初診日を平成○年○月とした上、事後重症による請求として障害基礎年金の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、「傷病(慢性腎不全)について、提出された資料では、申し出られた初診日(平成○年○月)の確認できないため。」との理由により、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
その理由は、「略」。

第3 問題点
1 国民年金法(以下「法」という。)の規定する障害基礎年金の支給要件存否の判断のためには、まず、それに係る傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)がいつであるかが認定される必要がある。したがって、この初診日を認定することができない場合には、その余の支給要件の存否についての検討を経るまでもなく、障害基礎年金の支給が認められないこともあり得るところである。
2 本件の場合、保険者は、請求人の請求傷病に係る初診日を平成○年○月とした本件裁定請求について、第2の2記載のように、「傷病(慢性腎不全)について、提出された資料では、申し出られた初診日(平成○年○月)の確認できないため」との理由で原処分を行ったものであるところ、請求人は、同3のように主張し、これを不当としてその取消しを申し立て、障害基礎年金の支給を求めているものと解されるから、本件でまず検討されなければならないことは、上記理由の当否である。すなわち、原処分は、上記理由のみを理由としているものと解するほかはないから、それは、初診日の認定については、裁定請求者が初診日として挙げている日・時期についてのみこれを行えば足り、この日・時期を初診日と認定することができないときは、それだけで裁定請求に係る障害基礎年金を支給しないとすることができる、との考え方に立っているものといわざるを得ないことになるが、本件において、そのような考え方に立った検討・判断のみで、請求人に障害基礎年金を支給しないとしたことが相当といえるかどうか、である。

第4 当審査会の判断
1 当審査会は、原処分は不当であり、取消しを免れないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1) 初診日とは、裁定請求に係る傷病等について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日とされているところ(法第30条第1項)、法は、発病又は受傷の日ではなく、この初診日を障害基礎年金の受給権発生の基準となる日として定めているのであるから、その趣旨等にかんがみると、初診日は、原則として、直接その診療に関与した医師若しくは歯科医師又は医療機関が作成した証明資料、又はそれに準ずるものと認めることができるような証明力の高い資料によって、これを認定しなければならないものと解するのが相当である(以下、この意味の資料を、便宜「初診日認定適格資料」という。)。このように解すべきことは、同種事案の処理の公平性や、取扱いにおける恣意の排除の必要性といった面からも要請されているものというべきである。そして、このような観点からすると、障害基礎年金の裁定請求における初診日の認定というのは、原則的・基本的には、初診日認定適格資料があるかどうか、あるといえる場合には、それによっていつと認定するのが相当か、という問題であり、それは、障害基礎年金の裁定を求める者が、その主張する日・時期が初診日として認められないのであれば、裁定請求に係る障害基礎年金の支給は求めない旨を一義的に明示しているとか、あるいは、障害基礎年金支給要件の一つであるいわゆる保険料納付要件の存否等の関係などから、不当に利を図ることを慮り、容易に提出し得るはずの資料を殊更に秘匿して、自分の望む初診日の認定を余儀なくさせる、といったような特段の事情が存する場合は別として、裁定請求者の主張する日・時期に必ずしも拘束されるものではないし、それだけを検討の対象とすればよいというものでもなく、当該案件において初診日認定適格資料があるか否かを検討した上、あると認められる場合には、それに基づいて日・時期を認定すべきことになるものというべきである。
もっとも、このような考え方を採ると、事実自体としての初診日については初診日認定適格資料がないため、それとは異なる日・時期が初診日として認定されるといった事態が起こらないでもなく、また、そもそも初診日認定適格資料が存しないときは、その余の資料等により、ある特定の日・時期に裁定請求に係る傷病について医師の診療を受けたことは間違いないとの心証が得られたような場合でも、初診日認定適格資料に代わり得るものと認めることができる程度に証明力の高い資料があるときや、傷病の性質に照らしてこれを必要としないと考えるべき場合等を除いては、初診日を認定することができないとしなければならないこともあり得ることになるが、それは、制度上、やむを得ないことというほかはない。
そして、当審査会に顕著な事実にかんがみると、保険者においても、本件の原処分のように必ずしもそうとはいえない処理も見受けられないではないが、一般的・基本的には、以上に述べたような考え方に立って初診日の認定を行うのを例としているものと思料されるところである。
(2) 上記(1) で述べたところを本件についてみると、次のとおりである。なお、請求人の請求傷病が糖尿病(以下「当該傷病」という。)に起因する傷病であり、当該傷病に係る初診日が請求傷病に係る初診日となることについては当事者間に争いがないものと認められるので、この意味における初診日を「本件初診日」という。
ア まず、本件については、既に裁定請求時において、いずれもその記載内容等から初診日認定適格資料と認めることのできるものとして、@c病院d科・A医師作成の平成○年○月○日付の診断書(以下「A医師診断書」という。)、Ae医院・D医師作成の、いずれも平成○年○月○日付の「受診状況等証明書@」及び「受診状況等証明書A」、Bf病院g科・E医師作成の「身体障害者診断書・意見書」(作成日の記載なし)等が提出されていたことが明らかである。
そして、これらの資料によって、当該傷病ないしはそれと相当因果関係があると認められる傷病に係る初診日として示されているところをみると、Aのうちの「受診状況等証明書@」に、「傷病名 ( 左) 虹彩炎 ( 両) 糖尿病性網膜症」、「発病年月日 平成○年○月○日」、「傷病の原因又は誘因不明」、「発病から初診までの経過○年○月下旬より左眼充血、眼痛を自覚」、「初診年月日平成○年○月○日」などと記載された上、それは「当時の診療録より記載したものです」と記されており、この平成○年○月○日というのが、上記各資料上、上記の初診日として示されている最も早い時期であることが認められる。
したがって、本件については、初診日認定適格資料があり、それによれば、当該傷病ないしはそれと相当因果関係があると認められる傷病に係る初診日に関し、平成○年○月○日が最も早い時期として示されているのであるから、(1) で述べたような特段の事情の存しない限り、請求人が上記の「受診状況等証明書@」に係るe医院を受診した平成○年○月○日をもって本件初診日と認定されるべきことになるというのが相当であるところ、この特段の事情をうかがわせるものは何もない。
イ なお、請求人は、平成○年○月を本件初診日と認めるべきであると主張するのであるが、それを是認させるに足る初診日認定適格資料はないといわざるを得ない。
すなわち、請求人は、上記主張を証するものとして、本件裁定請求時には、a病院(以下「a病院」という。)の診察券を提出しているのであるが、同診察券をもって初診日認定適格資料ということはできないし、その内容も、請求人が平成○年に同病院の内科を受診したことをうかがわせるだけで、それ以上の受診に係る傷病名や症状・治療内容等の詳細を示しているわけではないから、これによって直ちに平成○年○月はもとより、平成○年を本件初診日と認めることもできない。また、請求人は、再審査請求時に、A医師診断書の記載内容が一部変更されたとして、同医師作成名義の平成○年○月○日付診断書(以下、便宜「変更診断書」という。)を提出しているところ、この変更診断書は、末尾に「訂正 平成○年○月○日」との記載があり、A医師診断書において、傷病の原因又は誘因として「糖尿病性腎症 初診年月日(平成○年○月○日)」、現在までの治療の内容、期間、経過等として、「週○回の各○時間で維持血液透析加療を継続している。」と記載されていた部分の内容が、前者は「糖尿病 初診年月日(平成○年○月)」、後者は「平成○年○月に糖尿病と診断され、その後、慢性腎不全を発症し、週○回各○時間の維持血液透析加療を継続している。」と、それぞれ改められていることが認められるけれども、そのように改められた理由については何も示されていないし、それが、いわゆる医証等の確たる客観的資料に基づくものとも考え難い(もし、そのような資料があるのであれば、本件において資料として提出されているはずである。)ことにも照らすならば、変更診断書の上記変更部分は、初診日認定適格資料としては、にわかにこれを採用することができないというべきである。そして、他に、請求人の主張する平成○年○月(あるいは、平成○年)をもって本件初診日と認定することに関する的確な資料も存しない。
したがって、請求人の主張する平成○年○月、あるいは平成○年を本件初診日と認めることはできないことになる。
ウ 以上のとおりであって、本件初診日は平成○年○月○日と認めるのが相当であり、請求人の主張する平成○年○月あるいは平成○年と認めることはできないのであるが、請求人が上記の日・時期を本件初診日として主張し、それを証するものとしてイで触れた診察券や変更診断書を提出しているだけでなく、その作成に係る「病歴状況申立書(国民年金用)」(平成○年○月○日付)及び「受診状況等証明書が添付できない理由書」(同年○月付)においても、この主張に沿う記述をしていること等にかんがみると、請求人が、その主張のように、平成○年○月ころ、あるいは平成○年までの間に a病院を受診し、糖尿病ないしはそれと相当因果関係のある傷病と診断されたこと、あるいはこれらの傷病にかかわる症状等を指摘されたことは、障害基礎年金に係る初診日の認定という場面を離れた事実自体としてはこれを肯認し得るものと考えられるところである。
このような観点からすると、本件初診日を請求人主張の日・時期ではなく、その後何年も経過した平成○年○月○日と認めることについては、些か違和感を覚えざるを得ない面がないではない。しかし、初診日の認定については、(1) で述べたような考え方に立って行うのが相当であると解するほかはないのであるから、往々にしてこういった事態も起こり得るところであり、それは制度上やむを得ないことと考えるしかないというべきである。
(3) 保険者は、請求人主張の平成○年○月のみを検討対象とし、それについての初診日認定適格資料の存否だけを検討して、それ以上の検討を加えることなく、「傷病(慢性腎不全)について、提出された資料では、申し出られた初診日(平成○年○月)の確認できないため」との理由のみで原処分を行い、本件再審査請求の審理期日においても、「請求人の傷病については、請求人が申し立てる初診日を確認できないことから、請求人に対して行った処分は妥当なものと考えます」との意見を述べて、これを維持していることになるものと解される。このような原処分及び保険者の意見は、平成○年○月を本件初診日と認定することのできる初診日認定適格資料がないという意味では、結論として(2) イの認定・判断と同趣旨であり、そのとおりであるということになる。
しかしながら、(2) アで認定したところに照らすならば、原処分が上記のような検討しか行わず、それによって得られた結果のみを理由として、直ちに、請求人には障害基礎年金を支給しないと結論づけ、保険者が再審査請求段階においてもこれをそのまま維持していることは、(1) で説示した初診日の認定についての考え方と、それに基づいて採るべき手法を採らず、それゆえに、本件初診日を平成○年○月○日と認定した上、さらにその余の必要な審査・判断を行うべきであるにもかかわらず、それを全く怠っている点において、極めて不当である。原処分は取消しを免れないものというべきである。
2 なお、事案にかんがみ、その余の点についても触れておくと、次のとおりである。
(1) 本件初診日が平成○年○月○日であり、同日は請求人が20歳に達した後であることが明らかであるから、請求人が本件裁定請求に基づいて障害基礎年金の支給を受けるためには、裁定請求日における請求傷病による障害の状態が国年令別表の定める程度に該当していることのほかに、法第30条の2第1項及び第2項等の規定する被保険者資格の要件、及びいわゆる保険料納付要件を満たしていることが必要であるところ、請求人に係る被保険者記録照会(納付U)及び被保険者記録照会回答票(資格画面)によれば、請求人は、本件初診日において国民年金の被保険者であり、上記の保険料納付要件も満たしていることが認められる。
(2) また、上記の障害の状態については、社会保険庁が国民年金法上の障害の程度を認定するための具体的な基準として定め、給付の公平を期するための尺度として当審査会もそれに依拠するのが相当であると考える「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」の第3第1章第12節/腎疾患による障害によれば、人工透析療法施行中のものは2級と認定し、主要症状、検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定する、とされているところ、1(2) アに挙げたA医師診断書によれば、請求人は、平成○年○月○日から人工透析療法を施行されていることが認められるので、それは、少なくとも、国年令別表の定める2級の程度には該当していることになる。
3 以上の次第であって、原処分は不当であるから、これを取り消すこととし、主文のとおり裁決する。