平成21年(国)第234号
平成22年2月26日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、障害基礎年金を支給しないとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、そううつ病(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成○年○月○日(受付)、社会保険庁長官に対し、いわゆる事後重症による請求として障害基礎年金の裁定を請求した。
2 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、「障害基礎年金を受給するには、国民年金保険料納付要件を満たさなければなりません。初診日の前日において,初診日の前々月までの被保険者期間のうち保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あるか、初診日の属する月の前々月までの1年間に保険料の滞納がないことが条件となっています。あなたの場合、国民年金法第30条第2項に定められた障害等級2級に該当すると認められるものの、そううつ病での初診が平成○年○月○日であり、上記の保険料納付要件を満たしていないことから障害基礎年金を受給できません。」という理由により、請求人に対し、障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。不服の理由は、再審査請求書の「再審査請求の趣旨及び理由」欄の記載の主な部分をそのまま掲記すると、次のとおりである。
「略」

第3 問題点
1 疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日を「初診日」というとされているところ、20歳到達日以後に初診日のある傷病による障害について、障害基礎年金を受給するためには、以下の国民年金の保険料の納付等についての要件(以下、この要件を「保険料納付要件」という。)を満たしていることが必要である。そうして、この保険料納付要件は、初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、@当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であるか、又は、A当該初診日の属する月の前々月までの1年間が保険料納付済期間と保険料免除期間で満たされていることが必要である、ということである( 国民年金法(以下「国年法」という。)第30条第1項、第30条の2第1項、同第2項、及び、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第20条第1項参照。)。
2 そして、いわゆる事後重症請求による障害基礎年金は、裁定請求日において、その傷病による障害の状態が国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に掲げる程度(障害等級1級又は2級)に該当しない場合は、支給されないこととなっている(国年法第30条第1項、第30条の2第1項)。
3 本件の場合、請求人が裁定請求日において前記2の要件を満たし、その障害の状態が障害等級2級に該当する程度であることは、後記資料1から明らかであり、また、当事者間にも争いがないと認められるところ、保険者が前記第2の2記載の理由により原処分を行ったことに対し、請求人は、当該傷病に係る初診日(以下「本件初診日」という。)は、平成○年○月○日である旨主張しているのであるから、本件でまず検討されなければならないのは、本件初診日はいつかであり、次いで、請求人が保険料納付要件を満たしていると認めることができるかどうかである。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点を検討し、判断する。(1) はじめに、本件初診日について検討する。
○○○依存症と当該傷病とが合併することは、医学経験上よく知られた事実であるが、当該合併は、当該傷病が原因である場合と結果である場合の両様がある。本件において、平成○年○月以降請求人の主治医となったA医師(精神保健指定医)は、「○○○依存症発症前にゆううつ気分が存在していたと思われる。○年以降の○○量はごくわずかで、多弁、易怒的、過活動は○○○による脱抑制、興奮とは考えにくい、そう状態と考えられる。」として、○○○依存症の背景にそううつ病がある旨の見解を申し立てている。そうしてA医師は、再審査請求代理人の陳述から、抑うつ感を晴らす趣旨の○○○の○○酒を認め、治療経過の中で○○○の投与により多弁・易怒性といったその状態が抑うつ状態に変化し、○○○内服を中断するとそう状態となることから、平成○年○月○日に請求人の傷病をそううつ病と、確定的に診断したものと認められる。
一方、B医師は、A医師が○○○依存症と当該傷病の因果関係を認めているのに対し、平成○年○月○日の救急外来受診時においても、また、保険者が当該傷病の初診日であると認めている同年○月○日時点のいずれにおいても、主に内科医の立場から当該傷病と○○○依存症との関連性を論議することが困難である旨申し立てていることが窺える。
(2) B医師が示唆するように、当該傷病と○○○依存症に特段のかかわりはなく、また、あるとしても、○○○依存症が誘因となって平成○年○月○日より後に当該傷病を発病した可能性を完全に否定することも困難であるが、請求人がそれより前に睡眠鎮静剤・抗不安薬を処方されていることも事実である。もちろん、審理期日において保険者の代理人である精神科医が陳述しているように、上記薬剤は当該傷病だけでなく○○○依存症の患者にも処方されるものではあるが、A医師が申し立てているように、平成○年○月○日前から当該傷病の症状が出現していた可能性も否定できない。
(3) そうして、精神疾患においては、症状、治療の経過により確定診断がされることが臨床経験上一般的であり、最終的診断者の見解が重要視されることは否めない。生身の疾病をもった人間を診てきた上での診断であり、当該医師の判断は、それ相応の合理性を備えたものであると言える。もちろん、精神医学領域の診断は、他の医学領域に比較すると客観性・科学性に欠け、診察者の経験や主観に頼らざるを得ないという現状があることは事実であり(西村健外編著「臨床精神医学」、南山堂)、A医師のレトロスペクティブにみて平成○年○月○日が本件初診日であるとの見解が反証の余地のないものであるとは到底言えないことは言うまでもない。
(4) しかし、国民年金制度等社会保険制度における初診日は、保険事故の発生時点がいつであるかを確定し、どの制度から給付を行うのが適当か、また、給付を行わないのが適当かといった判断をする上で必要とされるものであるから、それが医学的に反証可能性がないほど確実なものである必要はなく、社会保険制度の趣旨・目的に照らして、相応の確実性を有するものであればよい。そうであるから、これまでに述べてきたところを踏まえると、A医師の申立てを採用して平成○年○月○日を本件初診日と認めるのが相当である。(5) その余の点について検討する。
請求人は、本件初診日と認定した平成○年○月○日において、国民年金の被保険者であり、前記第3の1に記した保険料納付要件を満たしていることが認められる。
(6) そうすると、請求人は本件裁定請求日である平成○年○月○日に2級の障害基礎年金の受給権を取得したことになるので、これを趣旨を異にする原処分は妥当ではなく、それは取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。