平成21年(国)第58号
平成22年4月30日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、障害基礎年金の支給を停止するとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過

第3 問題点
1 請求人は、クローン病( 以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、障害等級2級の障害基礎年金の支給を受けていた。
2 社会保険庁長官は、国民年金法施行規則第36条の4第1項により障害の現状に関する後記資料の診断書(以下「現状診断書」という。)を診査した結果、請求人の当該傷病による障害の状態は、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める程度に該当しないとして、平成○年○月○日付で、請求人に対し、同年○月から障害基礎年金の支給を停止する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 当該傷病は、小腸の疾患であるところ、小腸の機能障害で障害等級2級の障害基礎年金が支給される障害の程度としては、国年令別表に「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(15号)が掲げられている。
そして、社会保険庁では、国民年金法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
(2) 認定基準の第2「障害認定に当たっての基本的事項」の「1 障害の程度」によると、上記の「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものであり、例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである、とされている。
また、当該傷病はいわゆる難病であるが、難病については、認定基準の第3第1章(以下「本章」という。)第18節(以下「本節」という。)「その他の疾患による障害」によって、その障害の程度を認定することとされており、本節による障害は、本章「第1 眼の障害」から「第17 高血圧症による障害」において取り扱われていない疾患を指すものであるが、その程度は、全身状態、栄養状態、年齢、術後の経過、予後、原疾患の性質、進行状況等、具体的な日常生活状況等を考慮し、総合的に認定するものとし、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状があり、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定し、いわゆる難病は、その発病の時期が不定、不詳であり、かつ、発病は緩徐であり、ほとんどの疾患は、臨床症状が複雑多岐にわたっているため、その認定に当たっては、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定するものとし、障害の程度は、一般状態が一般状態区分表のオに該当するものは1級に、同表のエ又はウに該当するものは2級に、同表のウ又はイに該当するものは3級におおむね相当するので、認定に当たっては参考とする、とされている。
(3) クローン病は、確立した医学的知見によれば、その病因は不明で、主として小腸(小腸型)、大腸(大腸型)又はその両者(小腸・大腸型)を好発部位として、寛解と再燃を繰り返す慢性炎症性疾患であり、その活動度及び重症度指標として、下痢、腹痛、痔瘻又は肛門周囲膿瘍、瘻孔、発熱、貧血、合併症(関節炎、虹彩炎)等の評価項目が挙げられ、腸切除による影響などによって症状が増悪する。そして、重症度が増すと、通常の経口栄養では栄養維持に困難をきたすため、チューブによる経腸栄養、中心静脈栄養等により栄養を維持することが必要とされている。
(4) 請求人の当該障害の状態を前記認定基準に照らしてみると、次のとおりである。
請求人の当該傷病は、小腸型と解され、小腸に多発する狭窄、小腸・小腸瘻を認め、内科的治療は困難で、平成○年○月○日に腸切除手術が行われ、その後再燃し、増悪したことが窺われる。現症当時は、身長○○○p、体重は○○sで、標準体重(注:(身長−100)×0.9)○○.○sよりかなりの低値を示している。自覚症状として、下痢の回数は、平成○年○月の○日○○回以上から現症日(平成○年○月○日)時点で○○回と多くなり、他覚所見として、肛門部の腫脹、病変の増悪を認め、切除、排膿が必要であるとされ、検査所見では、現症日時点で、血清アルブミン(以下「ALB] という。)○ . ○ g/ ㎗、ヘモグロビン濃度(以下「HB」という。)○○ . ○g/ ㎕、CRP ○ . ○と平成○年○月○日のHB ○○ . ○ g/ ㎕、CRP ○ . ○(注:ALB は記載なし。)に比して増悪傾向を示し、低栄養、貧血及び炎症などが認められる。請求人は、生命維持に必要な治療として、毎日、細いチューブを鼻から胃へ挿入留置し、○時間、○○○㎉の経腸栄養補給が必須であり、それとともに、毎日の頻回の下痢、肛門病変の処置及び治療が必要である旨申し立てているが(審査請求書の記載)、この申立ては、矛盾するものではない。
以上から、本件障害の状態は、吻合部より口側に発生した潰瘍性病変及び肛門病変の再発、腸切除後等の影響により、頻回の下痢と上記症状の増悪が生じ、栄養障害に対する治療の必要性が高くなった状態で、直ちに命に関わるほどではないが、これらが、体力的、時間的にも、請求人の日常生活に著しい制限と困難性を課していることが窺われる。
なお、一般状態区分はイとされ、軽作業及び座業は可能とされ、大井医師は、資料2でもその判断を維持しているが、それは、「下痢が落ちついているとき」のことであり、また、室内で排便が自由に行える環境であれば事務等は可能であるとされるのであるから、大井医師の一般状態区分の評価は、請求人にとって好ましい条件を満たされた場合に係るものと言え、保険者のいうようにこれを過大評価することには疑問が残る。
たしかに、一般状態区分表イの状態は、3級に評価されることが多いことは事実であるものの、認定基準においても、前記(2) にあるように「イに該当するものは3級とおおむね相当する」としているのであって、それですべてが決せられるものではない。
そうして、前述した請求人の栄養状態、術後の経過、予後、クローン病の性質、進行状況等、具体的な日常生活状況等を考慮し、総合勘案すると、本件障害の状態は、前記(2) の2級の例示「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」に至っていると言わざるを得ない。
(5) そうすると、障害基礎年金の支給を停止するとした原処分は妥当ではなく、これを取り消す。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。