平成21年(国)第148号
平成22年6月30日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、障害基礎年金の支給を停止するとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、慢性呼吸不全T型、膠原病肺、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、喘息(以下、併せて「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、2級の障害基礎年金の支給を受けていた。
2 社会保険庁長官は、国民年金法施行規則第36条の4第1項による、障害の現状に関する後記審査資料の診断書(以下「現状診断書」という。)を診査した結果、請求人の当該傷病による障害の状態(以下「本件障害の状態」という。)は、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める程度に該当しなくなったとして、平成○年○月○日付で、請求人に対し、同年○月から障害基礎年金の支給を停止する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

第3 問題点
1 障害基礎年金は、受給権者が国年令別表に掲げる程度(障害等級1級又は2級)の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給が停止されることとなっている。
2 本件の問題点は、現状診断書の現症日当時における請求人の本件障害の状態が、国年令別表に掲げる程度に該当しないと認められるかどうかである。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 呼吸器疾患による障害により、障害等級2級の障害基礎年金が支給される障害の程度としては、国年令別表に「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(15号)が掲げられている。
そして、社会保険庁では、国民年金法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
(2) 認定基準の第3第1章第10節(以下「同節」という。)/呼吸器疾患による障害によれば、呼吸器疾患による障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績( 胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたり安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に該当するものと認定する、とされ、当該傷病に係る区分の呼吸不全による障害で障害等級2級に相当すると認められるものの一部例示として、下記のA表、B表及び一般状態区分表(これは本件審査資料1−1の一般状態区分表のアないしオと同じ内容のものである。)を掲げた上で、「A表及びB表の検査成績が中等度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの」が挙げられ、呼吸不全の障害の程度の判定は、A表の動脈血ガス分析値を優先するが、その他の検査成績等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定する、とされている。
A表 動脈血ガス分析値
区分 検査項目                単位 軽度異常  中等度異常 高度異常
1  動脈血O2分圧(以下「PaO2」という。)  Torr 70〜61 60〜56 55以下
2  動脈血CO2 分圧(以下「PaCO2」という。) Torr 46〜50 51〜59 60以上
(注)病状判定に際しては、PaO2 値を重視する。
B表 予測肺活量1秒率
検査項目     単位 軽度異常  中等度   高度異常
予測肺活量1秒率  % 40〜31 30〜21 20以下
また、在宅酸素療法を施行中のものについては、常時(24時間)の在宅酸素療法を施行中のもので、かつ、軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは原則として3級と認定し、臨床症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定するとされている。そして、同節の参考資料の「在宅酸素療法適応基準(日本胸部疾患学会肺生理専門委員会1985年)」(以下「適応基準」という。)によれば、在宅酸素療法については、以下のようになっている。
ア 前提条件あらかじめ酸素吸入以外に有効と考えられる治療(抗生物質、気管支拡張薬、利尿剤等)が積極的に行われており、その後少なくとも1カ月以上の観察期間を経て安定状態にあること
イ 適応基準
( ア) 安静、空気呼吸下でPaO2 が55Torr 以下のもの
( イ) PaO2 が55Torr 以上、60Torr 以下でも、明らかな肺性心、肺高血圧症(平均肺動脈圧20Torr 以上)、睡眠中あるいは運動時に長時間にわたり著しい低酸素血症(PaO2 55Torr 以下あるいはこれに相当する低酸素血症)のあるもの
ウ 禁忌
( ア) 臨床時に病状又は病態が不安定な場合
( イ) 酸素流量をしばしば変更する必要がある場合
( ウ) 酸素流量を3ℓ / 分以上にしないとPaO2 が目標値(通常60〜65Torr)に達しない場合
( エ) 酸素吸入によりCO2 蓄積が増悪する場合
(3) 認定基準の第2/障害認定に当たっての基本的事項「1 障害の程度」によれば、上記の「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のもので、例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである、とされている(以下「障害等級2級の総合的例示」という。)。
(4) 請求人の現状診断書の現症日当時の当該傷病による障害の状態を上記認定基準に照らしてみると、胸部X線では、胸膜癒着(○)、気腫化(○)、線維化(○)、不透明肺(○)、心縦隔の変形(○)、蜂巣肺(○)などの所見があり、自覚症状では、咳(○)、痰(○)、呼吸困難(○○○、○○○)、他覚所見では、ばち状指(○)、栄養状態(○)、ラ音(○○)、脈拍数(○)、肺性心所見(○)、チアノーゼ(○)等が認められ、換気機能検査では、肺活量○.○ ℓ / ○. ○ ○ ℓ(○○%)、1秒率○.○○ℓ / ○.○○ℓ(○○%)と混合性喚気障害を示し、PaO2 値は、常時1〜2. 5ℓの在宅酸素吸入が行われ、その条件下で、PaO2 が○○ Torr、PaCO2 が○○ Torr であり、PaCO2 は正常値を示しているものの、PaO2 は正常値にやっと収まっている程度である。そして、活動能力(○○○)の程度は、(エ)ゆっくりでも少し歩くと息切れがし、軽作業がやっとといったところとされている。労作時の呼吸困難感や息切れ・頻呼吸は病状の進行とともに徐々に増悪している状況にあり、一般状態区分表(ウ)で、 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているとされている。
これらのことから、本件障害の状態は、基本的に、在宅酸素療法の施行が必要な状態であり、PaO2 値は、現況当時の測定結果は記載されていないが、前記(2) の適応基準からすれば、空気呼吸下、安静時の条件で○○ Torr 以下の高度異常の状態にあったと認めるのが相当であり、現症日より約○月後の測定値は○○ Torr と中等度異常値を示している。平成○年○月○日現症の記載ではPaO2 値は○○Torr とされているが、それは安静時の在宅酸素療法施行中の条件下の測定であり、酸素吸入中は、安静時であれば、やっと正常値の範囲に収まっているものの、そのような状態に慣れていなければ、保険者医師が陳述するように、呼吸に閉塞を感じることになる。さらに言えば、呼吸不全による障害は、その程度を、運動能力、持久力の面からも評価すべきものであり、例えば、運動負荷肺機能検査(6分間歩行試験など)も必要に応じて行い、参考にすることが望まれる。在宅酸素吸入下であっても、安静時のみならず、酸素消費量の高まる運動時、労作時の条件下での、PaO2 値が大切である。本件においてこれをみると、安静時は○○ Torr と正常範囲内にあるものの、労作時の活動能力としては、ゆっくりでも少し歩くと息切れがするとされ、持久力の程度を窺わせる現症日の検査数値はないが、現症日から○月後のもので現症日当時とそれ程変わらないと認められる平成○年○月当時において、軽労作でオキシメータでSp02 が○○%台へと低下し、酸素2. 5 ℓ吸入下では、Sp02 は○○%以上を維持できる状態である、とされている。これらのことからすると、請求人は、現症時において、軽作業をやろうと思えばやれないこともないが、それには支障がある状態であったと認めるのが相当である。そうすると、請求人は、前記(2) の在宅酸素療法施行中の「さらに上位等級に認定する」ものに当てはまり、障害等級2級の総合的例示に該当していると言わざるを得ない。
したがって、本件障害の状態は、国年令別表に掲げる障害等級2級の程度に該当すると認めるのが相当である。
(5) そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。