平成21年(国)第180号
平成22年4月30日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、障害基礎年金の額を改定するとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、統合失調症(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、障害等級1級の障害基礎年金の支給を受けていた。
2 社会保険庁長官は、国民年金法施行規則第36条の4第1項による障害の状態に関する診断書(以下「現状診断書」という。)を診査した結果、請求人の当該傷病による障害の状態は、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に掲げる2級の程度に該当するとして、平成○年○月○日付で、請求人に対し、平成○年○月から障害基礎年金の額を改定する旨の処分( 以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。

第3 問題点
1 平成22年1月1日前においては、社会保険庁長官は、障害基礎年金の受給権者について、その障害の程度を診査し、その程度が従前の障害等級以外の障害等級に該当すると認めるときは、障害基礎年金の額を改定することができることとなっていた。
2 本件の問題点は、現状診断書の現症日当時における請求人の当該傷病による障害の状態(以下「本件障害の状態」という。)が、国年令別表に掲げる1級の程度に該当しないと認められるかどうかである。

第4 審査資料
「(略)」

第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 精神の障害により、障害等級1級の障害基礎年金が支給される障害の程度としては、国年令別表に「精神の障害であって、前各号と同程度(注:日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度)以上と認められる程度のもの」(10号)が掲げられている。
そして、社会保険庁では、国民年金法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
(2) 認定基準の第2「障害認定に当たっての基本的事項」の「1 障害の程度」によれば、1級の障害の状態の基本は、身体機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとするとされ、それは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものであり、例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである、とされている。
(3) 認定基準の第3第1章第8節/精神の障害によると、精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に該当するものと認定するとされ、統合失調症による障害で障害等級1級に相当すると認められるものの一部例示として、「高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の介護が必要なもの」が掲げられている。
(4) 請求人の本件障害の状態ついて、治療及びその病状の経過をみると、請求人は、平成○年○月から、途中○〜○月の退院期間はあるものの、現在(平成○年○月○日)までの○○年以上にわたって入院を継続し、最近一年間の治療の経過では、薬物療法、精神療法を主体に治療を継続しているが、妄想が残存しており、多飲行動もコントロール出来ず、時折身体拘束も含め、生活指導をしているとされ、病状又は状態像として、幻覚妄想状態(○○、○○、○○○○、○○○○)、精神運動興奮状態及び混迷の状態(○○、○○○)、統合失調症等残遺状態(○○、○○○、○○○)、人格変化(○○○、○○、○○)が認められ、お腹に自分の子供がいる〞等の幻聴、妄想も残存しており、生活は自閉的で臥床傾向、意欲低下、感情鈍麻がみられるとされている。そしてADLの程度は(4) で、「見守り援助を要する。」とされている。これら現況の病状や介護の必要度から、請求人の本件障害の状態は、前記(3) の「高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明なため,常時の介護が必要なもの」との1級の例示に該当するものと認められる。
(5) 保険者は、○年現状診断書に基づき、障害等級1級から2級に減額改定した主な理由は、ADLの判定及び程度が改善されていることが主な根拠である旨申し立てているが、障害等級1級に該当する程度と認められる障害の状態には幅がある。請求人は個室隔離からは脱し、ADLの判定では、身辺の清潔保持は自発的にできるが援助が必要な程度とされているものの、不潔行為が頻回であり、食事摂取では、自発的にはできないが援助があればできる程度とされているものの、多飲行為が頻回で、見守りと援助が必要な状況であるとされている。
精神障害者の障害の程度の評価は、社会適応性を示す一人暮らし想定のADLによる評価が原則であり、入院を継続している場合にも、保険者が申し立てるように、専門家である精神科医が「本人の一人暮らしを想定して」、在宅の場合と同様に行われるべきであるが、往々にして、入院管理下での全面的援助による一人暮らし想定となり、その上でのADL評価となる場合があり、長期入院の精神障害者の障害等級の認定に当たっては、この点に注意をする必要がある。
そうすると、請求人の、ADLの程度は(4) とされ、ADLの程度が(4)とされた場合は、2級と認定するのが相当である場合が多いことは事実であるとしても、本件の場合は、これまでに述べたところから、平成○年○月○日現症時における本件障害の程度が直ちに2級の例示に至ったとするのは妥当ではなく、いまだ従前の等級に該当する障害の状態にあるとするのが相当であると言わざるを得ない。
(6) したがって、上記と趣旨を異とする原処分は妥当ではなく、これは取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。