平成21年(国)第420号
平成22年5月31日裁決

主文
社会保険庁長官が、平成○年○月○日付で、再審査請求人に対し、平成○年○月から障害基礎年金の額を改定するとした処分は、これを取り消す。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、右根性座骨神経痛及び右変形性膝関節症(外傷性)(併せて、以下「傷病@」という。)とうつ病(以下「傷病A」という。)による障害を併合して、平成○年○月○日を受給権発生日とする障害等級1級の障害基礎年金の支給を受けてきたところ、同人は、社会保険庁長官に対し、平成○年○月○日(受付)、傷病@について障害給付受給権者障害不該当届(平成○年○月○日付。以下、単に「不該当届」という。)を提出する一方、傷病Aについては、国民年金法施行規則第36条の4第1項による、障害の状態に関する診断書(以下「現状診断書」という。)として、平成○年○月○日現症のもの(以下「診断書A」という。)を提出した。
2 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、「障害の程度が変わったため、年金額を変更しました。」として、平成○年○月から障害基礎年金の額を改定し、○万○円とする処分(以下「先行処分」という。)をした。
3 請求人は、先行処分を不服とし、○○社会保険事務局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。当審査会は、平成○年○月○日付で、保険者が不該当届を請求人に提出させ、それに基づき先行処分をしたことに手続違背があるとして、先行処分を取り消す旨の裁決(以下「先行処分裁決」という。)をした。
4 社会保険庁長官は、請求人に対し、傷病@に係る同人の昨年の誕生日ころ(平成○年○月○日)の現症の診断書の提出ができるかどうか「再度確認したところ」、同人からは、A師作成の平成○年○月○日現症の診断書(以下「診断書B」という。)が提出された(審理期日における保険者の代理人の陳述参照)。
5 社会保険庁長官は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、先行処分裁決を承けて、先行処分を取り消す一方、同日付で、「障害の程度が変わったため、年金額を変更しました。」として、平成○年○月から障害基礎年金の額を○万○円に改定する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
原処分は、取り消された先行処分と比べ障害基礎年金の額の減額改定の始期が○月間遅れているだけで、その点を除けば、両処分は同一内容のものであるが、保険者の代理人は、原処分の理由について以下のような趣旨の陳述をしている。平成○年現状診断書提出当時の、傷病Aによる障害の状態は、診断書Aによれば、国民年金法施行令別表に定める2級の障害の程度に該当するが、傷病@による障害の状態は、平成○年現状診断書が未提出であり、その障害の状態を認定することはできない、そうすると、平成○年現状診断書提出当時における請求人の障害の状態は、本件診断書Aのみをもって判断することとなり、原処分のとおり、2級の障害の状態に該当する。
6 請求人は、原処分を不服とし、審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
本件の問題点は、本件における具体的事実関係に照らして、原処分が適法かつ妥当なものと認められるかどうかである。

第3 当審査会の判断
(1) 本件の場合、先行処分も原処分のいずれもが、請求人の、平成○年○月○日ころの傷病@と傷病Aによる障害を併合した障害の状態が従前の障害等級以外の障害等級(2級)に該当すると社会保険庁長官が認めたことによるものである(国民年金法(以下「法」という。)第34条第1項)。両者の違いは、障害基礎年金額の「改定が行われた日の属する月」を、前者は平成○年○月(請求人の誕生月)とし、後者は、保険者によれば、現状診断書による改定の場合は誕生月の3月後とする取扱いがあるとして、同年○月(先行処分をした月)としたことによるが(法第34条第6項)、実質的には、両者は同一の処分とみることができる。
(2) 当審査会が取消し裁決をした場合に、保険者は当該裁決に拘束され、その処分を取り消さなければならないが、処分取消し後に全く同一の処分をすることが法的に全く不可能というわけではない。本件の場合、理論的には、先行処分裁決は手続違背によるものであるので、別個の手続により、別個の理由で先行処分と実質的に同一の処分をすることが可能な場合がないわけではない。しかし、この場合、別個の手続が法的に可能であり、かつ、それが適正に行われ、処分そのものも適法かつ妥当なものでなければならないことは、言うまでもない。
(3) 本件の場合、社会保険庁長官が別個の手続を新たに採ったかどうかについては、疑問の点がないわけではない。しかし、前記第2の4の診断書Bの提出を求めたことをもって、障害基礎年金の受給権者が現状診断書を提出しない場合に保険者が採り得る手段としての、法第107条第1項の規定による診断書の提出命令があったと解釈する見方があり得る。
(4) 障害基礎年金の受給権者が現状診断書を提出しない場合に、現行法は以下のような手続を予定している。
@ まず、「正当な理由がなくて」現状診断書を提出しなかったとして、法第73条の規定により、障害基礎年金の支払を「一時差し止める。」。この場合、本件のように別個の2個の傷病による障害を併合した年金を受給している場合には、それは、本来別個の障害基礎年金であったものが(法第31条第1項)、併給調整の規定により1個の障害基礎年金にまとめられたのであるから(同条第2項)、これに立ち返り、現状診断書が提出されていない傷病に係る部分の支払の差止め(本件の場合は、1級と2級の障害基礎年金額の差額部分の支払差止め)がなされると解すべきである。
A 支払差止めの場合、後に現状診断書が提出され、その解除がなされるときは、その診断書が支払差止め当時の現症のものでなくとも、解除がなされる限りは、支払差止め時に遡って解除するとの取扱いになるので、それを避けるため、保険者は、上記差止めに引き続き、法第107条第1項の規定による診断書の提出命令ないし同条第2項の規定による受診命令を発出し、受給権者がそれに従わない場合、法第72条の規定により、障害基礎年金の「額の全部又は一部につき、その支給を停止」する。
B なお、法第72条の規定と前記@で述べたと同様の理由により、本件の場合は、1級と2級の障害基礎年金額の差額部分の支給停止がなされると解されるので、実質的には、障害基礎年金の額改定処分と基本的には同一の法効果が生じる。
(5) しかし、本件の場合、法第107条第1項の規定による診断書の提出命令があったとみることは、困難であると言わざるを得ない。上記命令は、それに従わない場合には多大な不利益を生ぜしめるものであるから、その旨を告げて発する必要があるが、本件の場合、社会保険庁長官がそのような手続を踏んだとの主張も立証もない。また、社会保険庁長官が請求人に平成○年○月○日当時の現症の診断書を提出するよう求めたのは、先行処分裁決後、早くとも平成○年○月以降のことであり、傷病@の医学的特性(注:保険者の代理人の一人である医師は、審理期日において、傷病@は「病態的には固定性の病態ではない可能性もある」旨、陳述している。)、及び請求人の受診状況からして、同長官は、請求人に実現不可能な診断書の提出を求めたと言わざるを得ない。
(6) そして、保険者は、平成○年○月○日現在において、原処分を正当化する理由として、前記第2の5の傷病@に係る「平成○年現状診断書未提出」以外のものを、何ら示していない。
(7) そうすると、本件の場合、先行処分におけるそれと別個の手続により原処分が適法に行われたと認めることは困難であると言わざるを得ず、原処分は取消しを免れ得ない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。